税務・社会保険の取扱いは個別事情や自治体の運用で結論が変わります。本記事は一般的な情報の整理であり、最終判断は最新の一次情報の確認と、税理士・所轄税務署・お住まいの自治体への相談のうえで行ってください。
結論:新NISAで損益通算できないなら、まず何をすべきか
- 配当金の受取方式を「株式数比例配分方式」に設定する — これを外すとNISA内の配当にも20.315%が源泉徴収されます(日本証券業協会, 2025年)。今日すぐ確認できて、効果が最も確実な項目です。
- アセットロケーションを決める — 損出し(意図的な損失確定)の実益がある値動きの大きい個別株は特定口座、値動きが穏やかで長期保有する投信はNISA、という分け方が一般的とされています。
- 損切りの実行口座を決めるルールを持つ — 同じ資産を両方の口座で持っているなら、税効果が得られる特定口座側から売るのが基本になります。
- 繰越控除の申告は「副作用込み」で判断する — 確定申告すると合計所得金額に算入され、国民健康保険料などに影響する場合があります(刈谷市, 2025年)。
- 含み損のままNISAから課税口座へ移管しない — 移管日の時価が新しい取得価額になるため、損失が税務上も消えます(大和証券FAQ, 2025年/租税特別措置法37条の14第4項)。
なぜ新NISAでは損益通算できないのか?主な原因を深掘り

非課税口座内で生じた上場株式等の譲渡損失はないものとみなされ、特定口座や一般口座で保有する上場株式等の譲渡益や配当等との損益通算はできず、その損失の繰越控除もできません。 — 国税庁 タックスアンサー No.1535 NISA制度(2025年)
損益通算・繰越控除が「使えない側」に回るという構造
「nisa 繰越控除 できない」のはなぜか
制度の利用者が増え、論点に直面する人も増えている
損益通算できないと実際いくら損するのか?3ケースで試算
前提と計算式
- 課税対象額 = max(0, 特定口座の利益 − 特定口座の損失)
- 税額 = 課税対象額 × 20.315%(国税庁 No.1474)
- NISA口座の損失は、この式に一切登場しない(=ないものとみなされる)
3ケース比較:同じ損失でも税額はここまで変わる
| 損失の発生口座 | その年の課税対象額 | その年の税額 | 翌年以降に残る節税余地 | ケースAとの差額 |
|---|---|---|---|---|
| ケースA NISAで▲50万円 | 50万円 | 101,575円 | なし | — |
| ケースB 特定口座で▲50万円 | 0円 | 0円 | なし | ▲101,575円(Aより有利) |
| ケースC 特定口座で▲100万円 | 0円 | 0円 | 50万円を翌年以降3年間繰越(将来最大101,575円の節税余地) | ▲101,575円+将来分 |
損失額別の早見表(その年の課税口座の利益が十分にある場合)
| NISA内で確定した損失額 | 失われる節税効果(=損失額×20.315%) |
|---|---|
| 10万円 | 20,315円 |
| 30万円 | 60,945円 |
| 50万円 | 101,575円 |
| 100万円 | 203,150円 |
失われる節税効果 = NISA内で確定した損失額 × 20.315%
ただし上限は、同じ年に課税口座で確定している利益の額です。
課税口座の利益が+20万円しかない年に、NISAで▲50万円の損切りをした場合、失われる節税効果は50万円分ではなく20万円×20.315%=40,630円が上限です。差額は「損失額」ではなく「相殺できたはずの利益額」で決まります。
同じ▲30万円の損失、口座別に何が起きる?原因別の見分け方
| 項目 | ①NISA(つみたて投資枠) | ②NISA(成長投資枠) | ③特定口座(源泉徴収あり・申告なし) | ④特定口座+確定申告 |
|---|---|---|---|---|
| 損益通算の可否 | 不可 | 不可 | 同一口座内は自動で通算 | 可(他社口座・他口座とも通算) |
| 3年繰越控除の可否 | 不可 | 不可 | 不可(申告しないため) | 可(連続申告が要件) |
| 同年の税負担の変化 | 変わらない(利益に60,945円課税されたまま) | 変わらない(同左) | その口座内の利益と相殺され軽減 | 全口座横断で相殺・還付の可能性 |
| 投資枠への影響 | 年間360万円の枠は戻らない/翌年1月に簿価30万円分の総枠が復活 | 同左(成長投資枠1,200万円の内枠として復活) | 影響なし(枠の概念なし) | 影響なし |
| 配当を非課税にできるか | 対象商品が限られる(投信の分配金は非課税) | 可(株式数比例配分方式が必須) | 不可(20.315%課税) | 不可(申告で配当控除等の選択は可) |
| 米国株配当の外国税額控除 | — | 不可(現地10%は取り戻せない) | 可(申告により適用の余地) | 可 |
| 確定申告の要否と副作用 | 不要 | 不要 | 不要(申告しない自由がある) | 必要。合計所得金額が増え国保料・扶養・住民税非課税判定に影響し得る |
NISAの「枠」は戻るのか、戻らないのか
③と④の差は「申告する自由/しない自由」
NISA口座で保有する米国株等の配当は、日本国内で課税されないため外国税額控除の適用を受けられず、現地で源泉徴収された10%は取り戻せないとされています(マネックス証券FAQ, 2025年)。米国高配当株をNISAに置く場合は、この10%を織り込んで判断してください。
具体的な解決方法:損切りの実行口座を決める判定フロー
判定フローチャート
- NO → どちらの口座で売っても、その年の税効果は変わりません。NISAの枠復活(翌年1月・簿価ベース)を優先して判断してください。→ 判定終了
- YES → Q2へ
- YES → 特定口座側から先に売却するのが基本です。損失を通算に使えるうえ、NISAの非課税枠を温存できます。→ 判定終了
- NO → Q3へ
- YES → 実行前に次の3点を確認してください。→ 判定終了
- その年の年間投資枠(360万円)は戻らない
- 非課税保有限度額の復活は翌年1月
- 復活額は時価ではなく簿価(取得価額)ベース
- NO → Q4へ
- YES → 繰越控除による還付額と、保険料の増額分を必ず比較してから判断してください。刈谷市の案内(2025年)では、税の還付・減額分より国民健康保険税の増額分が上回る場合があるとされています。
- NO → 特定口座で損出しを行い、繰越控除を確定申告するのが合理的です(国税庁 No.1474)。
判定の根拠となる一次情報
- Q1・Q4の税額計算:国税庁 タックスアンサー No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除(2025年) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1474.htm
- NISAの損失の扱い:国税庁 タックスアンサー No.1535 NISA制度(2025年) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1535.htm
- Q4の国保への影響:刈谷市「株式等の譲渡所得等の国民健康保険税への影響」(2025年) https://www.city.kariya.lg.jp/kurashi/hokennenkin/kokuho/1006952/1003243.html / 豊田市「株式等の譲渡所得等の国民健康保険への影響」(2025年) https://www.city.toyota.aichi.jp/kurashi/koukikourei/1009088/1009123/1019482.html
ケース別の対処:繰越控除を申告すべき人・しないほうがよい人
ケース1:会社員・会社の健康保険加入者
ケース2:自営業・フリーランス(国民健康保険加入者)
ケース3:年金受給者・被扶養者
旧来の「所得税は申告・住民税は申告不要」は使えません
「上場株式 譲渡損失 繰越控除 デメリット」で挙げられる中心的な論点が、この社会保険料・扶養・非課税判定への波及です。所得税の還付額だけを見て申告を決めると、翌年度の保険料通知で想定外の負担に気づく、という順序になりかねません。
予防・再発防止のコツ:損が出る前にやる設定チェックリスト7項目
| # | チェック項目 | できていない場合の想定損失・リスク |
|---|---|---|
| 1 | 配当金受取方式が「株式数比例配分方式」になっているか | 配当額の20.315%が源泉徴収される(配当10万円なら20,315円) |
| 2 | 値動きの大きい個別株は特定口座、長期保有前提の商品はNISA、という配置になっているか | 損出しの実益がある資産をNISAに置くと、損失額×20.315%相当の節税機会を失う |
| 3 | NISAと特定口座で同一銘柄を持つ場合、売却順序のルールを決めてあるか | 誤ってNISA側から売ると、通算できたはずの利益分の節税(最大で利益額×20.315%)を逃す |
| 4 | 特定口座は「源泉徴収あり」になっているか | 「なし」では申告義務が生じる場合があり、申告により合計所得金額が増える |
| 5 | 過去に譲渡損失を繰り越している場合、今年も連続して確定申告する予定があるか | 申告が途切れると繰越控除の権利を失う(残損失50万円なら最大101,575円の節税余地が消滅) |
| 6 | 確定申告で合計所得金額が増えることによる国保料・扶養・住民税非課税判定への影響を事前確認したか | 還付額を上回る保険料増、扶養からの離脱、給付対象外となるリスク |
| 7 | 含み損のNISA資産を課税口座へ移管しようとしていないか | 移管日の時価が取得価額になり、含み損が税務上も消滅。その後の値上がり分に課税される |
項目1の注意点:設定は証券会社単位で適用されます
項目7の注意点:移管は「損失の二重消滅」を招きます
専門家・公的情報の見解:どこまでが確定した制度で、何が変わるのか
確定している事実(一次情報の要点)
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| NISA損失の扱い | 「ないものとみなされ」、損益通算・繰越控除ともに不可 | 国税庁 No.1535(2025年) |
| 課税口座の税率 | 20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%) | 国税庁 No.1474(2025年) |
| 繰越控除の期間 | 翌年以後3年間。連続して確定申告書の提出が必要 | 国税庁 No.1474(2025年) |
| 非課税保有限度額 | 1,800万円(うち成長投資枠1,200万円) | 国税庁 No.1535(2025年) |
| 年間投資枠 | つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円=360万円 | 国税庁 No.1535(2025年) |
| 課税方式の統一 | 令和6年度個人住民税から、所得税と住民税で異なる課税方式を選択不可 | 東京都北区(2024年) |
今後の変更で「損切りリスク」自体が下がる可能性
税制改正大綱の内容は、実際の法案・施行段階で細部が変わることがあります。2027年開始予定の内容については、施行時期が近づいた段階で金融庁のNISA特設ウェブサイト等の最新情報をご確認ください。
やってはいけないNG対応4選
NG1:含み損のNISA資産を課税口座へ移管する
NG2:枠を復活させる目的で、年内に慌てて損切りする
NG3:所得税と住民税で異なる課税方式を選ぼうとする
NG4:還付額だけを見て繰越控除を申告する
本記事に登場する対応はいずれも、個別の所得状況・自治体の運用・保有商品によって結論が変わり得ます。実行前に、所轄税務署・お住まいの自治体・税理士などの専門家にご確認ください。
まとめ:損益通算できない前提で、口座を配置する
よくある質問
Q1. NISAで損切りしたら、投資枠は復活しますか?
Q2. NISAの配当が課税されるケースはありますか?
Q3. NISAと特定口座はどう使い分けるべきですか?
Q4. 繰越控除を申告するデメリットは何ですか?
Q5. NISAで損失が出たら、確定申告で何かできることはありますか?
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の投資商品の推奨や、個別の税務・社会保険に関する助言ではありません。投資には元本割れの可能性があり、また手数料や信託報酬等のコストが発生します。税務上の取扱いや社会保険への影響は、個人の状況・自治体の運用・法令改正により変わり得ます。実際の判断にあたっては、国税庁・金融庁・お住まいの自治体の最新情報をご確認のうえ、税理士・所轄税務署・金融機関の担当者など専門家にご相談ください。
- 国税庁 タックスアンサー No.1535 NISA制度 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1535.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1474.htm
- 日本証券業協会「NISA口座における上場株式の配当金等受取方式に関する注意事項」 https://www.jsda.or.jp/shijyo/seido/tax/nisahaitoukin.html
- 金融庁 NISA特設ウェブサイト 利用状況調査 https://www.fsa.go.jp/policy/nisa/20260703.html
- 東京都北区「令和6年度より上場株式等の配当所得等及び譲渡所得等について所得税と異なる課税方式を選択することが出来なくなりました」 https://www.city.kita.lg.jp/living/tax/1001899/1001905/1001909.html
- 刈谷市「株式等の譲渡所得等の国民健康保険税への影響」 https://www.city.kariya.lg.jp/kurashi/hokennenkin/kokuho/1006952/1003243.html
- 豊田市「株式等の譲渡所得等の国民健康保険への影響」 https://www.city.toyota.aichi.jp/kurashi/koukikourei/1009088/1009123/1019482.html
- 大和証券 よくあるご質問「NISA(非課税口座)で保有する上場株式等を特定口座や一般口座に移管できますか。」 https://daiwa.dga.jp/faq_detail.html?id=1065
- マネックス証券 よくあるご質問「NISAで保有する米国株や中国株、ETFの配当金等について、外国税額控除の適用を受けられますか?」 https://faq.monex.co.jp/faq/show/280




