年末調整の保険料控除申告書は、控除証明書の内容を4つのブロックに転記し、下部の計算式に当てはめるだけで完成します。特別な知識は不要で、手順どおりに書けば15分程度で終わる書類です。
ただし、2026年秋に提出する令和8年分からは様式が変わりました。国税庁が2026年6月30日に公表した新様式では、生命保険料控除欄に「23歳未満の扶養親族の有無」の記載欄が追加され、該当する方は一般生命保険料の控除上限が4万円から6万円に拡充されます。
本記事では、令和8年分の新様式に対応した記入手順に加えて、多くの解説記事が触れていない「自分の年収ならいくら戻るか」の試算、証明書が複数あるときに有利な申告の選び方までを、資産形成を始めたい20〜40代の方向けに解説します。
結論:保険料控除の書き方は「仕分け→転記→計算」の3ステップ
保険料控除申告書は、証明書を種類別に仕分けて対応欄に転記し、計算式で控除額を出す3ステップで完成します。
具体的な手順は次のとおりです。
- 仕分ける: 10〜11月頃に届く控除証明書を「生命保険」「地震保険」「社会保険(国民年金など)」「iDeCo」の4種類に分けます。
- 転記する: 申告書の対応ブロックに、保険会社名・保険の種類・新旧の区分・申告額を証明書から書き写します。
- 計算する: 申告書下部の計算式に当てはめて控除額を算出します。端数は1円未満切り上げです(国税庁の記載要領による)。
令和8年分は、23歳未満の扶養親族(お子さんなど)がいる場合に新設欄への記入を忘れないことが追加のポイントです。
申告書に書く金額は、証明書の「証明額」ではなく12月末までに支払う見込みの「申告額(参考額)」です。この取り違えが最も多いミスの一つとされています。
なぜ保険料控除の書き方でつまずくのか?主な原因

つまずく原因は「新旧2制度×3区分の組み合わせ」「令和8年分の様式変更」「2種類の金額表記」の3点に集約されます。
- 新旧の制度が並存している: 2012年(平成24年)1月1日以後の契約は「新制度」、それ以前は「旧制度」で、計算式も上限も異なります(国税庁 タックスアンサーNo.1140、2025年)。
- 区分が3つある: 生命保険は「一般」「介護医療」「個人年金」の3区分に分かれますが、どれに当たるかを契約内容から自力で判断しようとして混乱しがちです。実際には証明書に区分が明記されているため、自分で判断する必要はありません。
- 令和8年分から様式が変わった: 2026年6月30日公表の新様式には23歳未満の扶養親族欄が追加され、古い記入例のままでは対応できません。
- 金額が2つ書かれている: 証明書には「証明額(発行時点までの支払額)」と「申告額(12月末までの見込額)」が併記されており、書くのは申告額の方です。
生命保険文化センターの2025(令和7)年度「生活保障に関する調査」(速報版)によると、生命保険の加入率は80.0%(男性78.2%・女性81.5%)です。給与所得者の大半にとって、この申告書は毎年関係する書類といえます。
控除証明書1枚ごとの見分け方【判定フローチャート】
手元の証明書は「種類→新旧→区分→子の有無」の順で判定すると、書く欄と使う計算式が1枚ごとに確定します。
STEP1: 証明書の種類は?
- 生命保険料控除証明書 → STEP2へ
- 地震保険(火災保険に付帯)の証明書 → 「地震保険料控除」欄へ
- 国民年金・国民年金基金の証明書 → 「社会保険料控除」欄へ(証明書の添付が必須)
- iDeCoの「小規模企業共済等掛金払込証明書」 → 「小規模企業共済等掛金控除」欄へ(生命保険料の欄ではありません)
STEP2: 生命保険なら「新・旧」どちらの表記か?
- 「新」(2012年1月1日以後の契約) → 新制度の計算式(上限4万円)
- 「旧」(2011年12月31日以前の契約) → 旧制度の計算式(上限5万円)
STEP3: 区分は?
証明書に記載された「一般」「介護医療」「個人年金」のとおり、申告書の対応する段に記入します。介護医療は新制度のみです。
STEP4(令和8年分のみ): 23歳未満の扶養親族はいるか?
- はい → 新様式の扶養親族欄に氏名等を記入し、一般生命保険料(新制度)は上限6万円の特例計算を使います。
- いいえ → 従来どおり上限4万円で計算します。
iDeCoの証明書を生命保険料の欄に書いてしまう誤記は典型的なミスです。国民年金基金と個人年金保険も名前が似ていて混同しやすいため、証明書の正式名称を確認してください。
年末調整の生命保険料控除の書き方は?記入欄と計算式
証明書の内容を左の欄から順に転記するだけで書けます。控除額の上限は新制度で各区分4万円・3区分合計12万円です。
記入欄への転記手順
転記する項目は7つで、すべて証明書に書いてあります。
- 保険会社等の名称(略称可)
- 保険等の種類(終身・医療など証明書の表記どおり)
- 保険期間
- 契約者の氏名
- 保険金等の受取人と続柄
- 新・旧の区分(該当する方に○)
- 申告額(12月末までの払込見込額)
控除額の計算式(新制度・旧制度)
計算式は申告書の下部に印刷されており、当てはめるだけで計算できます。
所得税の控除額は次のとおりです(国税庁 タックスアンサーNo.1140、2025年)。
| 年間払込保険料(新制度) | 控除額 |
|---|---|
| 2万円以下 | 支払額の全額 |
| 2万円超〜4万円以下 | 支払額×1/2+1万円 |
| 4万円超〜8万円以下 | 支払額×1/4+2万円 |
| 8万円超 | 一律4万円 |
| 年間払込保険料(旧制度) | 控除額 |
|---|---|
| 2万5千円以下 | 支払額の全額 |
| 2万5千円超〜5万円以下 | 支払額×1/2+1万2,500円 |
| 5万円超〜10万円以下 | 支払額×1/4+2万5千円 |
| 10万円超 | 一律5万円 |
計算結果に1円未満の端数が出たら切り上げます。例えば年間払込35,750円(新制度)なら「35,750×1/2+10,000=27,875円」です。
令和8年分の子育て特例:一般生命保険料の上限が6万円に
23歳未満の扶養親族がいる方は、令和8年分に限り一般生命保険料(新制度)の控除上限が6万円に拡充されます。
令和7年度税制改正によるもので、支払保険料が12万円を超えると満額の6万円になります(3区分合計の上限12万円は据え置き)。共働きの場合、要件を満たせば夫婦それぞれで適用できるとされています。適用する際は、新様式に追加された23歳未満の扶養親族欄への記入が必要です。
なお、2025年12月に示された令和8年度税制改正大綱では、当初は令和8年分限りだったこの特例を令和9年分にも延長する見直し案が示されています。
一般生命保険料を年12万円超払っている子育て世帯は、特例だけで控除が2万円上乗せされます。書き忘れるとこの上乗せ分を受けられないため、新様式の扶養親族欄は最初に確認しましょう。
年末調整の社会保険料控除の書き方:書くもの・書かないもの
社会保険料控除の欄に書くのは自分で直接支払った保険料だけで、給与から天引きされている分の記入は不要です。
書かなくていいもの
給与天引きの健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料は、勤務先が金額を把握しているため記入不要です。書いてしまうと二重計上になり、勤務先での確認・差し戻しの原因になります。
書くもの:国民年金などの記入例
対象になるのは、ご自身や生計を一にする家族の分を自分で支払った保険料です。代表例は、学生時代の国民年金の追納や、収入のない家族の国民年金を代わりに払ったケースです。
日本年金機構(2026年)によると、令和8年度の国民年金保険料は月額17,920円です。例えば大学生のお子さんの12カ月分を親が支払った場合、「社会保険の種類: 国民年金」「支払先: 日本年金機構」「本年中に支払った保険料: 215,040円」のように記入します。
- 国民年金・国民年金基金: 控除証明書の添付が必須です。
- 国民健康保険: 証明書の添付は不要で、支払額の記入だけで申告できます(金額は市区町村からの通知や領収書で確認)。
iDeCoは「小規模企業共済等掛金控除」欄へ
iDeCoの掛金は社会保険料控除でも生命保険料控除でもなく、小規模企業共済等掛金控除の欄に記入します。掛金は全額が控除対象です。
給与天引きの社会保険料を記入してしまう重複ミスと、iDeCoの欄違いは、社会保険料関連で特に多い誤りとされています。
地震保険料控除の書き方と旧長期損害保険の経過措置
地震保険料控除は所得税で最高5万円です。火災保険部分の保険料は対象外で、地震保険料の分だけを記入します(国税庁 タックスアンサーNo.1145、2025年)。
記入項目は生命保険とほぼ同じで、保険会社名・保険の種類・保険期間・契約者名・区分・申告額を証明書から転記します。
平成18年12月31日以前に締結した一定の長期損害保険契約は、経過措置として最高1万5千円の控除が受けられます。地震保険と旧長期の両方がある場合でも、合計の上限は5万円です。
損害保険料率算出機構(2025年)によると、2024年度の火災保険への地震保険付帯率は70.4%と過去最高を更新しています(世帯加入率は35.4%)。火災保険とセットで加入している方は、証明書に地震保険料控除の対象額が記載されているか確認してみてください。
年末調整の保険料控除でいくら戻る?年収別の試算早見表
年収500万円の方が生命保険料控除を満額(12万円)使うと、所得税と住民税を合わせて年間約19,000円の負担が軽くなる計算です。
軽減額は「所得税の控除額×ご自身の限界税率+住民税の控除額×10%」で概算できます。住民税側の控除上限は所得税と異なり、生命保険料は合計7万円、地震保険料は2万5千円です。
| 控除パターン | 年収300万円(税率5%) | 年収500万円(税率10%) | 年収700万円(税率20%) |
|---|---|---|---|
| 新制度・一般生命保険4万円のみ | 約4,800円 | 約6,800円 | 約10,800円 |
| 生命保険3区分で満額12万円 | 約13,000円 | 約19,000円 | 約31,000円 |
| 令和8年特例適用で14万円 | 約14,000円 | 約21,000円 | 約35,000円 |
| 上記+地震保険5万円 | 約18,000円 | 約26,500円 | 約43,500円 |
※復興特別所得税や他の所得控除の状況で変わるため目安です。限界税率は年収から推定した一般的な水準を用いています。
書類を1枚書くだけで数千〜数万円の手取りが増える手続きは、投資のように価格変動リスクを取る必要がありません。資産形成を始めたい方にとって、最初に取り組む価値の高い固定費改善といえます。
軽減額は限界税率に比例するため、同じ保険料でも年収が高い人ほど効果が大きくなります。年収700万円で満額+地震保険なら年4万円を超える差になります。
ケース別の対処:新旧両方ある・上限を超える・紛失した
証明書が複数あるときは、旧制度の年間支払額が6万円を超えるかどうかを最初に確認するのが判断の近道です。
同一区分で新旧両方の証明書がある場合
申告方法は「新のみ(上限4万円)」「旧のみ(上限5万円)」「新旧併用(上限4万円)」の3通りから選べます。
- 旧制度の支払額が年6万円超: 旧のみで申告した方が有利です。旧制度は支払6万円で控除額4万円(新制度の上限と同額)に達し、それを超えると最大5万円まで伸びるためです。
- 旧制度の支払額が年6万円以下: 申告書の計算式で新旧それぞれの控除額を計算し、大きい方(または併用)を選びます。
契約が多く上限を超える場合
控除額が上限に達したら、それ以上の契約は書かなくても控除額は変わりません。支払額の大きい証明書から記入し、上限に達した時点で止める方法が実務的です。
証明書を紛失した・提出後に気づいた場合
いずれも取り返しがつきます。次の手順で対応してください。
- 紛失: 保険会社に再発行を依頼します。多くの会社がWebや電話で受け付けており、マイナポータル経由の電子データ取得に対応している場合もあります。
- 提出後の誤り: 翌年1月の源泉徴収票発行前なら、勤務先が再調整に応じてくれる場合があります。まず担当部署に相談してください。
- 年末調整に間に合わなかった: 5年以内なら還付申告(確定申告)で控除を受けられます。出し忘れた年の分も遡って取り戻せます。
「旧6万円超なら旧のみ」「上限到達で記入停止」「間に合わなくても5年以内の還付申告」の3点を押さえれば、複雑なケースでも迷いません。
提出前チェックリスト10項目と再発防止のコツ
提出前に次の10項目を確認すれば、書き忘れ・重複・欄違いといった典型的なミスの大半を防げます。
- 金額は「証明額」ではなく12月末までの見込額(申告額)を書いたか
- 控除額の端数を1円未満切り上げで処理したか
- 同一区分で新旧両方あるとき、旧の支払額が6万円超なら旧のみで申告したか
- 給与天引きの社会保険料を重複記入していないか
- 国民年金・国民年金基金の控除証明書を添付したか(国民健康保険は添付不要)
- iDeCoを小規模企業共済等掛金控除の欄に書いたか
- 家族名義の契約でも、保険料を自分が支払っていれば対象に含めたか
- (令和8年分)23歳未満の扶養親族欄を確認し、該当すれば特例の計算式を使ったか
- 紛失した証明書は再発行を依頼したか
- 出し忘れがあっても5年以内の還付申告で取り戻せると把握しているか
来年以降は「手書きしない」のが最大の予防策
国税庁(2025年)によると、マイナポータル連携を使うと控除証明書データを一括取得し、年末調整の申告書へ自動入力できます。国税庁は無償の「年調ソフト」も提供しており、転記ミスや計算ミスそのものをなくせます。勤務先が年末調整システムを導入している場合は、保険会社の証明書を電子発行に切り替えておくと毎年の作業が数分で済みます。
証明書は届いたら1カ所にまとめて保管し、可能なものは電子データ化しておくと、紛失と転記ミスの両方を防げます。
専門家・公的情報の見解:一次情報はどこで確認できるか
書き方に迷ったら、国税庁の公式記載例と勤務先の担当部署に確認するのが確実です。必要な一次情報はすべて無料で公開されています。
国税庁のタックスアンサーNo.1140(2025年)では、次のように整理されています。
平成24年1月1日以後に締結した保険契約等(新契約)と平成23年12月31日以前に締結した保険契約等(旧契約)では、生命保険料控除の取扱いが異なります。
確認先の目安は次のとおりです。
- 様式と公式記載例: 国税庁「A2-3 給与所得者の保険料控除の申告」(2026年)
- 令和8年分の様式変更点: 国税庁「変更を予定している年末調整関係書類」(2026年)
- 控除額の計算根拠: 国税庁 タックスアンサーNo.1140(生命保険料控除)・No.1145(地震保険料控除)
- 国民年金保険料の金額: 日本年金機構(令和8年度は月額17,920円)
契約者と保険料負担者が異なる場合など個別の判断が必要なケースは、税務署の電話相談センターや税理士への相談が推奨されています。
保険会社各社も控除額の計算サポートツールを提供していますが、令和8年分の特例6万円への対応状況は提供元により差がある可能性があります。最終確認は申告書下部の計算式で行うのが確実です。
やってはいけないNG対応
避けたいNGは「証明額をそのまま書く」「iDeCoを生命保険欄に書く」「面倒だから出さない」の3つが代表的です。
- 証明額をそのまま転記する: 証明書発行時点(9月頃)までの金額のため、12月までの見込額より少なく、控除が過少になります。
- iDeCoを生命保険料控除欄に書く: 欄違いで正しく控除されません。小規模企業共済等掛金控除の欄が正解です。
- 給与天引き分を社会保険料控除欄に書く: 二重計上となり、差し戻しや後日の修正の原因になります。
- 証明書と違う金額を「だいたい」で書く: 勤務先での照合や税務署からの問い合わせの対象になり得ます。証明書に基づいて記入してください。
- 面倒だから提出しない: 年収500万円・生命保険満額なら約19,000円の負担減を手放すことになります。間に合わなくても還付申告という手段が残されています。
保険料控除は自己申告が前提の制度です。書かなければ勤務先も税務署も控除を適用してくれないため、「出さない」が最も確実に不利になる選択です。
まとめ:今日やることは3つ
保険料控除の手続きは、次の3つを済ませれば完了します。
- 控除証明書を4種類に仕分け、令和8年分の新様式に転記する(23歳未満のお子さんがいれば特例6万円の欄を確認)
- 新旧両方あるときは「旧6万円超なら旧のみ」を目安に有利な組み合わせを選ぶ
- 提出前にチェックリスト10項目を確認し、来年に向けてマイナポータル連携を設定する
年末調整の保険料控除は、価格変動リスクを取らずに手取りを増やせる資産形成の第一歩です。証明書が届いたら後回しにせず、その週のうちに記入まで済ませましょう。
よくある質問
保険料控除申告書を出し忘れたらどうなりますか?
5年以内であれば還付申告(確定申告)で控除を受けられます。年末調整に間に合わなくても控除の権利自体は失われません。源泉徴収票と控除証明書を用意し、税務署またはe-Taxで手続きします。
控除証明書をなくした場合は再発行できますか?
再発行できます。契約先の保険会社のWebサイトやコールセンターで依頼でき、通常1〜2週間程度で届くとされています。マイナポータル連携に対応した保険会社なら、電子データとして短期間で取得できる場合もあります。
家族名義の保険契約でも控除の対象になりますか?
保険料をご自身が支払っていれば対象になり得ます。生命保険料控除は契約者ではなく「保険料を実際に負担した人」が受けるものとされているためです(保険金受取人が本人または配偶者・親族であることなどの要件があります)。
申告額は控除証明書のどの金額を書けばいいですか?
「申告額(参考額)」として記載されている、12月末までの払込見込額を書きます。「証明額」は発行時点までの支払済み額のため、そのまま書くと控除が少なくなります。
令和8年分の子育て特例は共働き夫婦の両方で使えますか?
要件を満たせば夫婦それぞれで適用できるとされています(令和7年度税制改正)。23歳未満の扶養親族がいることが条件で、一般生命保険料(新制度)の上限がそれぞれ6万円になります。詳細は勤務先または税務署にご確認ください。
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※本記事は2026年8月2日時点の情報(国税庁・日本年金機構等の公表資料)に基づいています。個別の税務判断は、税務署または税理士にご相談ください。




